2026年11月2日、防災庁が発足しました。災害対応の「司令塔」として期待が集まる一方で、私には現場にいた頃から抱えてきた、ひとつの疑問があります。
私は金沢市消防局に35年間勤務し、東日本大震災では航空部隊として災害派遣に従事したほか、令和6年能登半島地震では石川県広域消防応援隊の隊長として、部隊の指揮・調整に当たりました。現在は消防・防災に特化した行政書士として、消防業務に関わる仕事や防災コンサルタントなどをしています。この連載では、その経験から防災庁の発足について思うことを、全3回でまとめてみます。
なお、本記事はあくまで私個人の考えを書き留めたものです。さまざまなお考えがあることと思いますが、いただいたご意見への個別のお返事は控えさせていただきますので、どうぞご容赦ください。
防災庁が発足するまで
防災庁の構想は、2024年11月に内閣官房へ設置準備室が置かれたところから本格的に動き出しました。2026年3月に設置法案が閣議決定され、7月13日に参議院本会議で可決・成立。そして11月2日、発足を迎えました。内閣直属の「庁」の新設は、2021年のデジタル庁以来です。
防災庁はどんな組織か
公表資料や報道から、主な特徴を整理すると次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 位置づけ | 内閣直属の組織。トップは内閣総理大臣 |
| 担当大臣 | 専任の防災大臣。各府省庁への勧告権を持ち、府省庁には尊重義務 |
| 主な業務 | 防災施策の基本方針・計画の立案、大規模災害時の総合調整、事前防災の推進 |
| 定員 | 352人(前身の内閣府防災部門 約220人の約1.6倍) |
| 本庁の主な部門 | 「災害事態対処」「防災計画」など |
| 人材育成 | 自治体職員らの研修を担う「防災大学校(仮称)」の設置規定 |
| 地方機関 | 「防災局」を2027年度以降に設置する方向 |
平時の備えから発災後の復旧・復興までを一貫して担い、各府省庁の取組が足りなければ勧告で動かす。政府全体の「司令塔」としての機能は、確かに大きく強化されました。
現場で感じてきた疑問
では、災害の現場は変わるのでしょうか。
大きな災害が起きると、被災地には消防、警察、自衛隊、海上保安庁、国土交通省のTEC-FORCE、DMATなど、多くの機関が駆けつけます。どの機関も、命を救うために全力を尽くします。ところが発災直後の現場では、それぞれの機関の現場トップが、他の機関のトップと一対一で調整を重ねているのが実情です。
本来、現場をまとめるべき被災市町村の災害対策本部は、自らも被災して機能が落ちていることが少なくありません。機関が6つあれば、調整が必要ですが時間がかかります。人命救助の「72時間」が刻々と過ぎていくなかで、私にはこれを効率的にできる方法がないものなのかと感じていました。そして、ずっとこう思ってきたのです。なぜ、発災直後(初動)の国の「現場指揮支援部隊」がいないのか、と。
特に消防では、緊急消防援助隊が出動した際、指揮支援部隊長が各部隊の調整を担います。しかし、平時はそれぞれ地元消防の業務に従事しており、日頃から訓練を重ねているとはいえ、被災地となる他の都道府県の地理や地域事情に精通しているわけではありません。
そのような状況の中、全国から集結した消防の実働部隊を統括するだけでなく、自衛隊や警察、DMATなどの関係機関とも連携・調整しながら災害対応に当たるには、相当な労力と高度な調整能力が求められると思います。
何が変わり、何が変わらないのか
防災庁の発足で、国の体制は確かに厚くなりました。しかし、私の見るかぎり、強化されたのは主に本庁の企画・調整の機能です。
| 項目 | 強化されたもの | 変わらないもの |
|---|---|---|
| 担う場所 | 東京の本庁 | 被災地の最前線 |
| 中身 | 計画づくり、総合調整、府省庁への勧告 | 発災直後に被災地で関係機関を調整する役割 |
| 担い手 | 企画・調整を担う職員が中心(筆者の見方) | 被災地で関係機関を調整する専従の部隊は置かれていない |
組織の看板と人数は変わっても、「発災直後の現場で、誰が各機関を束ねるのか」という問いには、まだ答えが出ていない。これが、発足の日に私が最も強く感じていることです。
- 内閣官房 防災庁設置準備室「防災庁設置に向けた最近の取組と今後の方向性」(2026年10月21日)
- 公明新聞「防災庁を11月2日設置」(2026年9月26日)
- 共同通信「防災庁法成立、11月にも創設」(熊本日日新聞掲載、2026年7月13日)
- 共同通信「防災庁創設、司令塔整備へ」(秋田魁新報掲載、2026年3月6日)
- 参議院「立法と調査」No.487(2026年9月)
消防法令や各種手続でお困りの際はお気軽にご相談ください。
元消防署長の経験を活かし、現場と行政の両方の視点からサポートいたします。
行政書士石川勝事務所
(防災コンサルタント)
金沢市・白山市・野々市市を中心に活動。
石川県内や北陸三県にも対応いたします。
金沢市消防局に35年間勤務し、駅西消防署長、消防局予防係長・消防署予防係長、石川県消防防災航空隊副隊長、高度救助隊長等を歴任
東日本大震災、能登半島地震、奥能登豪雨などの現場対応・支援経験を持つ現場主義の防災スペシャリスト
法政大学法学部および経済学部、中京大学体育学部卒業のトリプル学士を取得
現場の危機管理ノウハウに、法務・労務リスク対策、財務・事業継続の経営視点を融合させた「総合的なBCP構築・コンサルティング」を得意としている。
